味噌汁に入れる豆腐を切るときにまな板を使う人はいない。手のひらの上、というか、手のひらに豆腐をのせて、包丁を入れる。
長いことこれをくりかえしているわけだが、いつも思い出すことがある。いまだに。
大学進学に際して、上京、その2年前に上京していた姉と同居することになった。晩飯は早く帰った方が作る。二人とも金がないので、家で食べることが多かった。
定番は、焼き魚と味噌汁。そんな感じ。味噌汁の具は豆腐のことが多かった。
で、ある日。
姉が、「ぎゃー」と大声をあげた。味噌汁を作っていたはずだ。
「どうしたんだ?」と聴くと、「間違って包丁を引いてしまった」という。
包丁を手のひらで手前に引いてしまったら、手は切れるわけで。
手のひらは真っ赤にそまっている。
血が流れているのである。
豆腐の底面は赤くにじんでいるのである。
姉は料理の初心者ではない。小学生時代から包丁を握っていたような人で、一人暮らし時代もきちんと自炊をしていたのだ。もう何年も料理をやってきたはずである。
それなのに、何を血迷ったか、「なんとなく」包丁を手前に引いてしまったのだそうだ。
「なんでそんなことをしたのかわからない」とも言っていた。
というようなことを、手のひらで豆腐を切るたびに思い出すので、さすがに、そこで包丁を引くことはない。
っていうことを、書きたくなったので、書いてみた。
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